雪中松柏 愈青々

徒然なる山の備忘録 

眩耀のオバタキタン

ルート:白山 境川 大畠谷右俣~開津谷下降(2014/9/20-22) 
メンバー:ハッチ、みなぽ

 

「ガンガラシバナ」「オバタキタン」サワヤが憧れ、その魅力に取りつかれた者が呪文の様に唱え続ける不思議な名を冠した秘境が幾つかある。

七月に念願の ガンガラシバナ を訪れ、八月に 銚子川岩井谷 を遡行したので、今月の目標は白山のオバタキタンに定めた。

少し調べてみたら記録は多く出てくるので秘境という言葉がこの沢に当てはまるかは人によって意見が分かれるかもしれないが、やはり代替不可能な魅力を擁した秀渓は記録の多さに関係なく訪れる価値がある。

夜の帳が明け、陽光に染まるオバタキタン奥壁の大スラブは、眩いばかりの光を発してその存在を力強く誇示していた。


9/20(土)
8:15 桂橋-9:30 2段30m滝下-11:30 高巻き終了-12:50 8mCS滝上-14:40 2段40m滝下-15:50 二俣C1

夜行バスで富山駅に降り立ち、そこから車で桂湖へ。大畠谷出合に架かる吊り橋から入渓となるが、踏み跡らしきものも見当たらないので懸垂下降で沢床に下りる。


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ロープを回収しようと思ったら初っ端からスタック。どうやらロープの末端に巻かれている小さなテープが小枝の二又の分岐点に挟まった様だ。登り返して回収するが出鼻を挫かれた感。テープは次の休憩で全て取り払った。


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しばしのゴーロ歩きの後、徐々にゴルジュ状地形へと入っていく。ゴルジュと言っても沢幅が広いので渓相は明るい。途中で釣り師に遭遇するが我々が見ている限り魚影は見当たらず。桂湖のバックウォーター付近には鯉の様な巨大な魚影が蠢いていたが…。


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やがて関門の2段30m滝が登場。少し戻り左岸の踏み跡から巻き始める。かなり上まで登った後、トラバースして懸垂下降で高度を下げるが、上流にもう一つ登れそうにない滝が見えるのでそちらもついでに巻く。すっきりとルートを見極められなかったので、二時間程度の大高巻きとなってしまった。


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ここから大谷出合付近までは癒し系。しかし接着剤で補強してきた筈のサワートレッカーRSのソールが剥がれかけている。ソール自体は二回目の使用で既に剥がれ始めていて、都度接着剤で補強していたが、接着剤の下地に接着剤を縫っていたので効果が薄かったか…。針金で応急処置。


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少し進むと地面にK2のPontoonが埋まっているのを発見。
大笠山の様な奥深い山でスーパーファットを使う人間は限られているので大体察しがついたが、下山後調べてみるとやはり二年半前に雪崩で板を流した記録が見つかった。しかしこんな山深いところで板を無くすと敗退も大変そうだ。


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沢は再びゴルジュ帯となり、まずは3段15m滝。フリーで快適に登る。
続くCS滝×2は直登できないので左岸のすべる草付を登り、残置支点から斜め懸垂。ここから怒涛の連瀑帯が始まる。


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挨拶代わりにシャワーを浴びながら5m滝を登ると、直登の厳しそうな6mの垂直の滝。ここは右壁の凹角をハッチが空身で突破して荷上げ。


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続く大釜を持った 滝は右岸からへつってパスし、その後の6m滝は左岸から慎重にトラバースして抜ける。程よい緊張感の強いられる大畠谷中流部のハイライト。


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7mCS滝を左から巻くと端正な2段40m滝が行く手を阻む。ここは少し戻り右岸のルンぜから取り付いて高巻く。正面の山肌には巨大なスラブの姿。間もなく訪れる大スラブ帯への期待が高まる。藪を漕ぎながら小尾根を乗越して懸垂下降で落ち口近くに下りる。


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残雪はないが雪渓跡の垣間見られる狭いゴルジュを抜けると遠くに左俣大滝の姿。いよいよ待望の大スラブ帯がその姿を現す。


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左手には雪で磨き抜かれた岩肌を流れ落ちる150m大滝、右手には巨大なスラブ帯が広がり、視認できないがスラブと岩稜に包まれる様に細いゴルジュがうねる。入渓前に見た写真では伝わらなかった空間の広がりがそこにはあった。


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沢登りでは中々味わうことのできない圧倒的なスケール。規模的にはガンガラシバナと同程度か。右俣ゴルジュを少し偵察するが、すぐにソロでは登れない滝が出てきたので河原へ戻る。


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夕食はデザートに焼きリンゴも振る舞われ、焚火を囲んで充実の幕営生活。最高のロケーションの中、明日の登攀に期待と不安を募らせながら満点の星空のもと眠る。


9/21(日)
6:30 C1-7:30 右俣左岸スラブ登攀開始-12:30 巻き終了-14:00 C1530尾根上-15:20 開津谷二俣C2

4:30起床。朝から焚火で暖を取っていると徐々にスラブが朝焼けに染まり出す。冬山のモルゲンロートを彷彿とさせる神聖な一時を、朝食を摂りながらしばし見守る。


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6:30 行動開始。昨日引き返した滝は、ショルダーで左岸から右岸へ渡る。この後はゴルジュ内部はツルツルの滝で、右岸の壁にラインを見出そうとするが、あまりすっきりしない。


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試しに取り付いてみるが、掴んだホールドがかけてずり落ちる始末なので、もう一度ツルツルの滝に取り付いてみて、ハーケンを足場になんとかA0で突破。ラストはアブミを上から吊り下げて登ってもらう。右往左往していきなり時間をロスしてしまったが、気を取り直してここからスラブ帯の登攀に取り掛かる。


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今回は50mロープ×2なので、ロープを二本引いてフォローは同時に登ってもらうことにする。しかし岩が脆くて少し触れるだけでヤバい落石を頻発させるので、後続が先行者のフォールラインに入らない様に注意しなければならない。トップはなるだけ浮石をスイープしながら、やや斜上気味のラインで登る。


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残置もほぼ皆無でハーケンを打ちながらの登攀。ピッチを重ねる毎に高度感が増し、中々の緊張感。フォローで登る分にはそこまで難しくないが、トップは上部で詰まないのは勿論の事、フォールラインにビレイヤーが入らないライン取りを心掛けながら、無数の浮石を払いのけ続ける必要があるので中々大変。


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しかし沢登りという範疇を超絶した空間の中での登攀は中々シビれるものがある。途中に真新しいイボイノシシの残置あり。先週の連休で登ったパーティのものだろうか。


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三ピッチで上部ブッシュ帯のほぼ真下まで付け、ここからブッシュ沿いを直上&トラバースして鋭角リッジを乗っ越す。


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ロープをしまってブッシュの濃い尾根から下降するが、途中で露岩帯になるのでロー プを連結して50m懸垂。再びブッシュ帯となるので少し藪を漕ぎ、5m程度の懸垂で沢床に下り立つ。


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スラブ帯上部は楽園の様なナメが広がり、まるで核心部の突破を祝福してくれているかの様な癒し渓。


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少し戻って右俣ゴルジュの抜け口を見てみると、垂直のツルツル滝でヒョングった水流が、内臓の様にうねる大ゴルジュの中を滔々と流れ落ちて行くのが見える。なんとも形容し難い光景だ。


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しばしのナメの後、渓相は一気に渋くなり、先週遡行した月山の沢を彷彿とさせる藪に囲まれたV字谷の遡行となる。


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40mナメ滝をロープを出して登ると、やがて右手の稜線が低くなるので五分程度の藪漕ぎで開津谷への乗越地点に到着。奥の二俣までは少々渋いが、そこから先はただのゴーロ帯。上部に広がる仙人壁の景観が素晴らしい。


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開津谷の二俣はビバーク適地と聞いていたが、あまり快適な場所はないので、藪を切り開いてタープを広げられるスペースを確保。今日も焚火をして一夜を過ごす。

 


9/22(月)
6:45 C2-8:45 15m滝-10:25 桂湖BW-11:00 開津橋

結露が凄くて、朝露で目を覚ます。今日は開津谷を下降するだけなのでのんびりとスタート。

最初の連瀑帯は右岸巻き。思ったより連瀑帯が長くて結構長めに巻くが、最後はノーロープで下りられた。


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ここからゴルジュ帯に突入。地形図上の魚留滝は残置テープで懸垂下降。ロープの回収で少し岩肌に引っかかったなと思ったら、ロープの中間部に結構なダメージが…。まだ三回目の使用であるが、前回使用時には既に一部毛羽立っており、三回目でもはや使用できないレベルに。RCMで約半額で購入したとは言え悲しい…。


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ゴルジュの抜け口にかかる斜瀑と15m滝を懸垂で下りると、後は河原歩き。この辺はなんだか無駄に残置が多い。


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後は楽勝と思いきや、巻かないと下れない堰堤が続き、藪の濃い踏み跡を都度左岸巻き。すぐに林道が出てくるかと思いきや、それらしきものは中々現れず、結局桂湖のバックウォーターまで沢沿いに下りることとなった。


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バックウォーター付近からようやく林道らしきものが出てくるので取り付く。開津橋に荷物をデポし、ダッシュで車回収。デポ地点に戻ったら乾燥中の装備で露店が開かれており、通行車両に都度ガン見されていた。

下山後は白川郷観光を楽しんで岐阜の寿司屋で打ち上げして解散。昨年の立合川に続き、今年もこの三人で秀渓の遡行ができて良かった。