雪中松柏 愈青々

徒然なる山の備忘録 

奥利根源流遡行記

ルート:奥利根 越後沢右俣&利根川本谷(2013/8/10-13)

 

今年の夏は沢合宿のとりまとめをやることになったので、今まで行けていなかった奥利根で合宿を企画。計21名六パーティで、奥利根周辺の沢を攻める。自分のパーティは、以前から気になっていたド定番の利根川本谷をベースとし、そこに越後沢右俣を加えて四泊五日の計画とした。

利根川本谷は雪渓がない時に行くと案外簡単らしいが、牙の抜けた利根川本谷に挑んでもという気持ちもあり、狙うならやはり雪渓処理が大変なお盆の時期で。しかし今年は残雪が多いとのことで、入山前に各方面からヤバそうだよとの声が聞こえてくる。

雪渓処理は、巻くか、登るか、潜るかの選択肢を比較検討して、極力安全な形で時間を掛けすぎずに抜ける必要がある。沢独自の読みとルーファイが存分に効いてくる世界。一歩ミスれば、プラス二、三時間が上乗せされ、ミスが重なるとあっという間に一日、二日と日数が延びていく。しかし時間が掛かるのを嫌って安易な選択を取ると、エスケープの取れないところで事故って万事休すとなる。経験に裏打ちされたロジカルな判断で成否が決まる世界。恐れ半分、楽しみ半分で奥利根の地へと向かった。

 

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8/10(土)

7:10乗船=7:30BW-8:05小穂口沢出合-9:30シッケイガマワシ-11:00越後沢出合-11:40越後沢右俣出合-13:50中間尾根-16:00大滝下降点C1

 

道の駅水紀行館からタクシーで矢木沢ダムへ。今回はやぐらさんの渡し船で4パーティ計13名が、三回に分けて乗船する手筈となっており、ちょうど一便目のM浦パーティが乗船する頃だったので、軽く挨拶をして船が帰ってくるのを待つ。水資源機構の監視人さんに計画書を提出すると、熊やマムシに注意するようにとの助言をいただく。熊は奥利根湖を泳いでいたこともあるらしく、近づくと船をつかんできて大変な目にあったらしい。また、マムシは人の気配で逃げず、気付いたら近くにいて襲われることがあるとのことなので、草付きなどでは十分注意とのこと。さらに予想していた通り、今年は残雪期以降の雨が少なく、相当量の雪渓が残っているらしい。色々アドバイスを頂いているうちに、渡し船が戻ってくる。

 

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矢木沢ダムは7月末には貯水量が35%程度まで落ち込んでいたが、ちょうど貯水しているタイミングということもあって入渓時には65%程度まで回復していた。小穂口沢出合まではさすがに厳しかったが、割沢と赤倉沢の中間付近までは行くことができた。

 

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ここから湖脇の道を進み、小穂口沢出合に至る。ここからはしばらく河原を進み、途中から右岸の踏み跡を少し進んで、再び沢底に戻る。途中で釣りをしている先行パーティの二人組に出会い、横を通り過ぎようとすると、浅瀬に岩魚が三匹ほど跳ねていた。手づかみにしようと試みるも、あっさり股下から逃げられる。

やがて沢は白い冷気に包まれ、シッケイガマワシでいよいよ最初のスノーブリッジ(以下SBと表記)が登場。右岸の露岩を要所で10mロープを出して確保しながら慎重に巻く。

 

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その後は何度かスクラムで渡渉しながら進み、11:00にC1予定地の越後沢に到着。さすがにこの時間で行動終了とするのは早すぎたので、不要な荷物をデポして、越後沢を行けるところまで進むこととする。二俣までは快適なゴルジュが続くが、右俣に入った瞬間にSBが登場。ヘッドランプを出して、一人ずつ下を潜る。すぐに二つ目、三つ目が登場するが、三つ目は進めども先が見えず、途中で穴の開いていた左岸側の小沢に逃げ、左岸の藪から巻くこととする。しばし藪を漕いで、雪渓終了点で懸垂下降。しかし、息つく間もなくすぐに次の雪渓が現れ、下を潜って通過するも、先にまたしても先の見えない長大な雪渓が現れる。右岸からの藪漕ぎを試みようとするも、尾根越えルートで面倒そうだったので、一旦上部の越後沢中間尾根へと上がる。

この尾根はルートとしても使われることもあるが、かなり藪が濃くて結構苦労する。尾根上の見通しが良いところから右俣を観察すると、潜るの巻くのも厳しそうな雪渓が延々と大滝下まで続いている。また、上を歩こうにも断続的に途切れていて、その都度雪渓に登り降りできるかは怪しい。結局、ほとんど雪渓に覆われている沢筋を進む意義も感じられず、お目当ての右俣大滝までは中間尾根を進むこととし、大滝への下降点になりそうな沢筋の上でC1とする。

 

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ここからは左手に中俣の「マボロシの大滝」、右手に右俣の「八百間の大滝」が見下ろせ、最高のロケーション。景色に酔いしれながら、奥利根の最初の夜を過ごす。

 

 

8/11(日)

5:00幕場-5:30八百間の大滝取付-7:50三角雪田-8:50幕場-11:30越後沢出合-12:30ヒトマタギ-14:45滝ヶ倉沢出合先の大砂地C2

 

3:00起床、5:00出発。まずは中間尾根から大滝まで、懸垂下降を交えながら沢筋を下降する。八百間の大滝は3段250mの高さがあるが、この時期下段は雪渓に埋まっており、登れるのは中段より上だけとなる。早速ロープを出し、中段の左壁をトラバース気味に登る。いやらしトラバースだが、イボイノシシが良い感じに決まっていて安心。

 

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落ち口に出ると、今度は迫力の上段150mが姿を現す。遠目から見るとこの上段は垂瀑っぽくてとても登れる様には見えないが、直下に来てみると快適に登れそうな雰囲気。

 

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各自途中までフリーで登り、高度感のある最後の1Pだけ、ロープを出して登る。特に難しいという感じはなく、終始快適な大滝登攀。

 

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その後、小滝を幾つか越えると雪渓が現れる。すぐに中間尾根に上がっても良かったのだが、折角なので上部の奥壁と雪田を見に行くことに。雪渓はそのまま奥の雪田まで続いており、その奥には強烈なルンゼが刻み込まれた奥壁が聳え立っている。奥利根の中にあって、なんとも越後らしい風景。しばし絶景を堪能して、沢筋から中間尾根へと上がる。尾根上はやはり藪が濃く、下りはまだ良いものの、エスケープで登りに使うのはちょっと考えものである。デポしていた幕営道具を回収して、引き続き中間尾根を下る。

 

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11:30越後沢出合着。まだまだ時間に余裕があるので、デポ品を回収して利根川本谷の遡行を開始する。ヒトマタギで写真撮影した後、ゴルジュ帯を適度に水に浸かりながら、楽しく進んでいく。特に大変な泳ぎなどもなく、あっさり滝ヶ倉沢出合に到着。

 

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さらに15分程進むと、オイックイ手前付近で巨大SBが登場。その手前にいい感じにならされた大砂地があるので、ここでC2とする。盛大に焚火も出来て快適な幕場だったが、たまにSBから冷気が漂ってきて寒い。この日は幕場で釣りを試みるが、全く魚影がないので早々に諦める。代わりに、M中さんの肉厚ベーコンを焚火で焼いて堪能する。

 

8/12(月)

6:00幕場-9:50定吉沢出合-11:00西俣沢出合-12:40丹後沢出合-13:20大利根滝-15:20西小沢出合手前C3

 

4:00起床、6:00出発。この日は利根川本谷の核心である「オイックイ」の通過が待っている。ヘッドランプを装備して、まずは最初のSBを息を殺して潜る。すぐに二つ目のSBが登場。こちらは奥を覗いても出口が見えないので、慎重を期して、ロープを出して右岸側から雪渓上へとでる。雪渓は右岸からの小沢をまたいで「くの字状」になっており、側壁との境目にはラントクルフトが発達している。SBの出口付近でバイルを使って円柱を掘り出し、スノーボラードでの懸垂下降を試みるが、沢床に下りる前に奥にSBがあるのが見えたので、途中のテラスで下降を止め、再度ロープを出して右岸藪へと入る。しばしの藪漕ぎの後、懸垂下降でSB出口へ。すでに十分雪渓と格闘している感じだが、トポによるとここからがオイックイだそうである。

 

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越後コボラ沢を越えると逆くの字型のSBが登場。こちらも先が見えず水深も深そうだったので、1Pロープ→藪漕ぎ→懸垂下降の流れでパス。この辺からゴルジュ状地形が顕著になり、その後の雪渓はやむをえず下を潜っていく。

 

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やがて本日6回目のSBが登場。入口付近で崩れた雪が積み重なっておりいやらしい感じだが、巻くのも厳しそうだったので、しばしの偵察の末、意を決して潜ることとする。一度覗いた感じでかなり先は長いと予測していたが、実際には想定の三倍ぐらいあり、通過するのに五分ぐらいの時間を要した。トポで記載されている複数のSBが全て連結している感じで、中越後沢をまたいで全長約300mといったところ。正直生きた心地がしなかったが、わずかな外光が隙間から差し込んでくる暗闇の中を抜けるのは、とても神秘的な体験だった。

 

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この後、二つのSBを潜ってオイックイ終了。定吉沢出合で小休止。この先の狭いゴルジュを抜けると、再び雪渓が出現する。一つSBを潜った後、本日10箇所目の長い雪渓の上を歩き、続く長めの雪渓を左岸藪から巻く。西俣沢を越えた箇所でトポ上では15m魚止滝の巻きポイントとなるが、その直前にSBがあったので、手前から一気に右岸を巻くこととする。滝部分は越えたものの、沢筋は延々と雪渓が続いており、先の雪渓も含めて一気に三つのSBを巻くこととする。藪漕ぎ自体は比較的順調だったが、最後下降がシビアだったので、やむなく出口付近のSBの穴から懸垂下降で沢床へ下りる。

 

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崩れた雪渓を抜けると、流れの強烈な5m滝。20m補助ロープで確保しながら越えると、またしてもヤバげなSBが口を空けて待ち構えている。巻くのは厳しそうだったので、再び意を決して潜るが、出口に小滝があったので、焦って光の差し込む側壁の空間に一旦避難する。よく見ると左壁に残置ロープがぶら下がっていたのでそこから登ると、すぐに威圧的なヒョングリの滝。一瞬側壁を登って上部のSBの穴から抜けようと思ったが、ヒョングリの右壁を登ると、暗闇の先に光が見えたので、そこまで再び潜って抜ける。

 

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雪渓潜りのみならず、途中で小滝の登攀などもあって、かなりシビれるポイントだった。真の核心と言ってもよいだろう。抜けた後は、小沢を登ってこの雪渓の上に出る。丹後沢との分岐を経由して3mCS滝手前まで延々とこの雪渓は続いていた。16,17個めのSBを潜ると、記録で見慣れた大利根滝20mが登場。右壁が階段状になっており、快適に登れる。

 

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ハト平の平坦地は残雪で覆われており、時間に余裕もあったので、もう少し先へ進むこととする。すぐに出てくる雪渓の上を歩き、深沢出合で藪に入って懸垂下降で次の雪渓上に降りる。そこから狭いゴルジュとなるが、何故か水が急に濁り始める。雨が降った訳でもないのに水が濁るということは、上部が何かしらの原因で荒れているということ。先へ進むと、なんと崩壊中の雪渓がギッシリとゴルジュ内に詰まっておりカオスな様相を呈している。この時点でSBの数を数えるのはやめる。時には氷水に浸かり、時には雪渓と壁のわずかな隙間を抜けたりと、悪戦苦闘しながら、なんとかゴルジュ帯を抜ける。心臓によろしくないので、極力こういう遡行はご遠慮願いたい。

 

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西小沢出合付近の平坦地も残雪が敷き詰められていたので、5m滝上の右岸の薄い藪を刈り払いして幕場とする。苦労して生木の焚火を作り、濡れた装備を一生懸命乾かして、奥利根最後の夜をまったり過ごす。

 

8/13(火)

6:00幕場-10:10深山滝-11:15赤沢滝-12:40稜線-12:50大水上山-13:10利根川水源の碑-13:40丹後山小屋-16:00林道-16:45十字峡小屋

 

4:00起床、6:00出発。朝一のゴルジュ帯はやっぱり雪渓がビッシリ。適宜、潜ったり、藪から巻いて懸垂下降で下りたりして抜ける。しばらくすると雪渓が消えて、快適な小滝群が始まる。これでようやく雪渓とおさらばかと思いきや、人参滝手前でまたしても巨大な雪渓。この辺になると水流が少なく、下を潜れなくなってくるので、やむなく雪渓上に乗ろうとするが、取りつこうとすると雪渓が崩壊して冷や汗もの。仕方がないので、手前の藪からロープ3P→藪漕ぎ→懸垂下降で巻く。

 

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結局、人参滝は完全に雪の下に埋まっていた。続く深山滝20mも、上部が少し見えているのみ。ラントクルフトが深く、取り付くのは危険な為、左岸の藪に入って1P→懸垂下降で巻く。

 

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その後も断続的に雪渓が続き、登っては降りてを繰り返す。赤沢滝20mのみしっかり露出していたので、ロープ1Pで流芯を爽快に突破する。水上滝は落ち口のみ見えていたので、左から補助ロープを使って慎重に落ち口へトラバースする。この後も雪渓が途切れることなく、結局稜線直下の三角雪田まで続いていた。稜線直下で12時の無線定時更新。これまで一度も他パーティと繋がらなかったが、この時初めてH部パーティと連絡が取れた。あちらも無事に小穂口沢を抜けたとのことで、今晩一緒に打ち上げする約束をする。

 

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12:40稜線到着。荷物を置いて、まずは空身で大水上山へ。越後方面がガスって見えなかったが、雪渓の詰まった利根川源流と中ノ俣の展望は素晴らしい。再び荷物の場所に戻り、今度は利根川水源の碑へ。ここで沢装備を解除して記念撮影。後は下山するのみである。下山中、7~8合目付近で携帯の電波が入ったので、五十沢温泉に連絡して送迎のバスをお願いする。

 

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16:45十字峡小屋到着。小屋でA久パーティの書置きを見た後、我々の書置きを残す。17:30に送迎バスが到着。H部パーティはまだ下山してきてなかったので、一足先に温泉へ向かう。宿で水資源機構の方に下山連絡。温泉に入って、近くの居酒屋で打ち上げを始める。

 

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20:30頃、ようやく連絡が入り、H部パーティが到着。稜線の藪漕ぎが結構大変で、下山時間が遅くなったとのこと。盛大に打ち上げを行い、翌朝バスと電車でお盆の家族連れで賑わう道の駅水紀行館に戻り、帰京した。

 

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【雑感】

想像以上に雪渓が多く苦労したが、適切に雪渓処理ができて、一日短縮して抜けることができた。しかし冒頭にも上げたとおり、一つの判断ミスで一気に時間を浪費する可能性もあるので、やはり予備二日分は用意しておきたい。

越後沢の大滝も予想以上に素晴らしかった。最近まわりで登っている人が増えたが、やはり中俣のマボロシの大滝は登っておきたい。

また、オイックイではいままでにない危険なスノーブリッジ潜りを経験したが、一度やるとその魔力に取りつかれて危険。雪渓は基本巻くものだということを、改めて認識しておく必要がある。

今回は六パーティでの奥利根合宿だったが、他五パーティも全て予定通りの行程を消化できた様で、合宿のとりまとめ役としても大変嬉しく思う。また機会を見て、このエリアに再訪したい。