雪中松柏 愈青々

徒然なる山の備忘録 

山岳会運営について所感①

この一年間、某山岳会の運営でそれなりの立場を任せられてきた。
あまり表立って書けない様なこともあったが、折角の経験を風化させるのも勿体ないので、備忘録として残しておきたい。

昨今は山岳会の評価自体が揺らいでいるが、個人的な感想としては、会に所属していないと(自身にとって)ここまで良い山はできていなかったし、会に入らないと実現しえなかった良き出会いも多かったので、入会して良かったと思っている。

結局のところ良い悪いはマッチングの問題でもあるので、十把一絡げに「山岳会が良い悪い」と評すること自体がナンセンスであり、個々人がそれぞれのケースで判断するものである。
今回は山岳会は興味あるけど、なんだか大変そうだし面倒くさそう…と思われている方に向けても、良い面・悪い面含めて情報提供できれば幸いである。


まず前提として、山岳会で運営を任される人は、必ずしも山の実力の高さだけでなく、適性や人間関係で決められる場合がある。(実際、自分より実力が上の方は多い)
基本的に山に行きたい人達の集まりなので、面倒事を率先してやりたい人はあまりいないし、ババ抜き的な側面も無きにしもあらず…だが、山岳会はギブ&テイクの世界なので、諸先輩方にお世話になった分はしっかり返すのが仁義を通すということであり、指名が来た時には快く引き受けた。
なので、この後に書かれていることは概ね会の中堅どころの考えという事で、必ずしも会を代表する考えではないということを強調しておきたい。

運営が担う仕事としては「山行管理」や「会山行の企画」を始めとして組織運営に関わる諸々があり、会の代表、運営のまとめ役、会企画のまとめ役という様に、役割によって組織の頭も三つに分かれている。


まず、基本の「山行管理」だが、会員がどの様な山行を実施しているのか把握して、有事の際には対策を取るというものである。これは山岳会の基本であると共に、会員が入会している労山新特別基金の交付条件もある。組織に所属して一定の恩恵を得る以上、課された義務を果たす必要はある。

◆労山新特別基金

細則[山行規定]
1.団体は、会員の登山活動を事前に管理する
2.事前管理には、技術教育、指導、訓練、健康管理、個別の山行管理を含む


計画提出と下山管理は、オペレーションの問題につきる。最近では年間で約1100の山行が提出されるので、改善の必要に迫られて幾つか新しい取り組みを実施した。
他に問題になるのは計画への指摘で、基本的に下記の様な場合に運営が関与することとなっている。

  • 山行規定が遵守されていない、またはその他のルールを蔑ろにした状態で計画を提出している場合
  • ベテラン会員がまだ判断力に不安のある会員の庇護を行う必要があると判断した場合(まだ行くべきでないルートにそうと知らずに行こうとしている)
  • まだ会で実力の把握できていない新入会員が、訓練の前に実践的な山行に臨んだり、単独や会員外メンバーとの山行を計画している場合

 

誰しも自分の計画に待ったを掛けられるのは気持ちのいいものではないので、ここで上手くコミュニケーションが取れないと人間関係のこじれに繋がる。
しかし、日頃からまともな関係性を築いていれば、そこまで大きなトラブルに繋がることはない。(後述の一部例外を除いては…)

 

次に「会山行の企画」だが、基本的には訓練系と実践系に分かれる。

訓練系は、初級ロープワークから始まり、岩・沢・雪山・アイス・山スキーの基本技術、及びレスキュー訓練など。
実践系は、訓練直後の実践経験、会員間交流、地域研究など、その年の主旨に合わせて何タイプかの集中や合宿を企画する。

山岳会はアマチュアの集まりなので、いかに正しく合理的な指導体制を構築できるかは難しい課題であり、外からも錆びついた技術をアップデートせずに教え続けているという批判を受けたりもする。

しかし、優秀なガイドに習って効果的な訓練方法を学んだりしている方もいるので、そういった方達の貢献で質の高い訓練を受けられるケースもあるし、Wikiに資料をまとめて会の知識基盤を固めようという試みも行っている。
個々人で外部へのアンテナを強く張っていたりもするので、手前味噌ではあるがステレオタイプな山岳会のネガティブな要素はそこまで感じない。
メーリングリストや訓練山行を通じて、互いの得意分野を教え合ったり情報交換したりというのも強みである。

確かに基礎的な技術は登山学校やガイド講習で学んできてもらった方が確実かもしれないが、バリエーションが当会スタートでも問題ない様な体制は整えられているかなという感覚はある。

座学や事故事例紹介は月に二回実施している例会で定期的に行っているが、頻度が多い訳ではないので、机上学習においてはやはり個々で学ぼうとする姿勢が必要ではある。

ただし、山行中でしか学べないことは実力者に付いて行って学ぶしかないので、この辺は山岳会のアドバンテージが大きい。

 

山岳会は時差を伴った技術のギブ&テイクとよく言われおり、実際師弟関係になって学べることは多い。この辺の恩恵を受けられるがどうかが、山岳会に入って良かったかどうかという分岐点になりやすい。また、自身が成長した後に誰かを指導するという経験もさらに自身の糧となる。

しかし最近は山に深く浸かれる社会人も少なくなっており、特に若手は就職・転勤・結婚・出産などで会に定着しないことも多い。
せっかく指導しても空振りで終わるケースが増えてきて、徒労感からか上記の様な価値観も徐々に薄れてきている様に感じる。当会に限らず、時差なしでギブ&テイクを成立させようとする傾向も強まって来ている様なので、今後会のあり方も問われる。

<時差なしギブ&テイク>

  • 新人はボッカ・ラッセル・車要員などで貢献する
  • そもそもの実力の高さが求められる(同人化)

 

また、一見面倒を見ている様で微妙なのが、新人が入るとここぞとばかりにバリエーションに連れ回そうとするケースである。それらは親心ではあるものの、実力の把握や基礎訓練の前に、周りの反対を押し切って自身の判断で勝手に連れまわそうとするのはエゴ(或は自身の自尊心を満たす為)であり、場合によっては新人を勘違いさせ、間違った安全管理意識を植え付けることにも繋がる。

個々の自己決定権も尊重したいとは思っているので、話し合って落としどころが探れるのであれば良いのだが、こういうケースに限って組織の論理に則って話をしているのにも関わらず、最初から聞く耳を持たれない場合が多い。

どこでも自己の利益やプライドを優先した結果、周囲の声に素直に耳を傾けられなくなってしまった方達は一定数いるので、そこに向き合おうとするのは無駄に消耗するだけなのだろう。上記の様な「詰み」になったケースは意図せず巻き込まれた方がいない限りはスルーするしかないかなと思っているが、実際のところ何が正しさなのかはよく分からないままである。(全体の0.5%未満のケースではあるが)

ちなみに山岳会によっては、他会の人と山に行くのに大きく制限がかかることもあるが、あまり厳しく制限するのは現実的ではない様に感じる。
所属している会も会員外との山行は多いし、それ自体が悪いことだとは思わないが、会内での繋がりを得ようとする人が積極的に会に貢献するのに対して、会員外とばかり行く人はフリーライド気質が高まってくるので、牽制的なものは必要になってくる。



そんな感じで山岳会の運営について簡単に振り返ってみたが、結局面倒さが強調された様な感じがしないでもない…。これ以外にも色々書きたい事はありますが、とりあえず今回はここまでということで。

ちなみに一年間運営をやってみて、最終的に山岳会もある程度良識のある大人の集まりなので、一部の利己的な行為を抑え込みさえすれば、運営が過度にコントロールしなくてもそれなりに上手く回るはず、という結論ではあります。

また、山岳会に入会すると最初の一年は色々ツッコミが来て面倒かもしれませんが、周囲に認められれば居心地はよいので、不必要に恐れる必要もないと思います。

最後に一応伏せてはいますが諸々バレバレなので、関係者の皆様ご容赦ください。