雪中松柏 愈青々

徒然なる山の備忘録 

錦秋の朝日荒川東俣沢

ルート:朝日連峰 荒川東俣沢左俣~大朝日岳(2014/10/11-13)
メンバー:MKさん、みなぽ

 

紀伊の沢の伝道師みなぽさんに東北の沢の魅力を伝えるべく、朝日連峰の荒川へご招待。10月に朝日の沢というと直感的に寒そうという感想がよぎるが、タイミングが良かったのが実際に行ってみるとそこまで寒くない。

また稜線付近は紅葉の最盛期で、厄介な虫もおらず、好天を上手くつかめれば一年で最も遡行の楽しめる時期かもしれない。

ぶなの森のプロローグから始まり、透明度の高い清流、花崗岩のゴルジュ、ススキの源頭、紅葉の稜線と完成度の高い沢旅を満喫でき、存分に朝日の沢の魅力を感じてもらえた様だ。

 

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10/11(土)
10:45 針生平-12:00 角楢小屋-12:35 荒川入渓-14:40 毛無沢出合-15:35 曲滝上C1

京都から来るみなぽさんのピックアップの関係で、入山口の針生平に到着したのは10時過ぎ。準備して出発する頃にはいい時間になっていたが、本日の行程は比較的短いので問題なし。

 

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まずは入渓点を目指して登山道を進む。しかし最初の吊り橋を渡った直後に大朝日岳への道標とセットで通行止めを示すかの様なロープが張られており、それを避ける様に右手の道を進路を取るとどんどん変な方向へと進んでしまう。

15分程歩いた後に引き返し、正規のルートがあるであろう方向へ藪を漕ぐと幅広の登山道に出た。どうやら最初の道標&ロープの地点は分岐になっており、正規のルートはすぐに沢を渡渉していた様だ。我々が進んだ道は地形図に載っていなかったが、テーピング付きの整備された道でちょっと紛らわしい。気を取り直して再出発。

 

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登山道は味わい深いぶなの巨木に囲まれており、これから始まる沢旅の素敵なプロローグ。時折ナタメが刻まれたりしているのも味わい深い。スリリングな吊り橋を慎重に渡るとすぐに角楢小屋。ここから30分ほど進んで、ようやく荒川の入渓ポイントに到着。

 

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荒川は全国有数の水質を誇る清流とのことだが、確かに水の透明度がハンパではない。そこに晴天と純白の花崗岩が合わさると、まるで宝石の様な輝きを発する。

 

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しばらくは頭上の紅葉で燃え上がった稜線を見上げながら、のんびりと河原歩き。

一時間弱で最初の泳ぎが必要な瀞場が出てくるが、想像していたよりは寒くない。この辺から岩魚の姿も目立ってくるが、泳いでいる最中に眼前を十数匹の岩魚が群れをなして横切っていく様は実に壮観であった。しかし今は禁漁期間なので指を咥えて見送るしかない。

 

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やがて沢はゴルジュ状地形となり、ヘツリを駆使しながらの楽しい遡行が始まる。白く磨かれた花崗岩の中を深緑の淵が滔々と流れ落ち、自然の落ちなす造形美に見惚れながら進んでいくと、やがて毛無沢出合に至る。

 

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毛無沢は険谷として知られているが、名からも伺えるように巨大なスラブ帯を有する沢でもある。スラブ帯の下部にはスラブを滑り落ちて溜まった大量の雪がいまだに巨大な雪渓として残っており、とてもではないが水線沿いの遡行はできそうにない。

 

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曲滝30mは右岸巻きとなるだが、残置が充実しており簡単に巻ける。滝上に幕営適地があるので本日はここまで。焚火を囲んで牛丼と焼きりんごという、沢登りとは思えない様な充実した夕食を頂く。

 

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10/12(日)
6:00 C1-6:30 綾滝 7:00-7:30 連瀑巻き【2h】-9:50 大滝3段20m【2h】-12:00 二俣(東俣沢[進]/中俣沢)-14:00 二俣(左俣[進]/右俣)-大滝巻き【1.5h】-17:20 C2

4時起きで焚火を囲みながらまったりと日の出を迎える。6時出発で再び花崗岩の美しいゴルジュを進む。一ヶ所スノーブリッジが出てくるが、巻きは下降が厳しそうだったので走って潜る。

 

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綾滝8mは右壁から取り付き、美しい二条の水流のアーチを潜り抜けて右岸へと取り付く。朝からシャワークライミングでテンションが上がる。

 

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続いて瀞場が出てくるので、寒さに耐えながら泳いで越えるとゴルジュの中に通過でき無さそうな連瀑帯が現れる。ここは右岸から大高巻きとなるが、巻きの取り付きはさっきの泳いだ瀞場の手前になるので、再び泳いで戻る。

 

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右岸の大高巻きは1Pで藪の中を斜上し、2Pでスラブ中腹のバンドをトラバースとなる。1P目で上がり過ぎないように要注意。最後は藪の中をトラバースして、クライムダウンで連瀑帯の落ち口に至る。

 

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その後、再びスノーブリッジが登場。こちらも巻けそうにないので走って潜る。その先は崩壊した雪渓が散乱しており陰鬱な雰囲気。ここで右岸から西俣沢が出合う。

 

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続く大滝3段20mは左岸巻きとなるが、20mほど登った所で小さく巻こうとトラバースラインを探って少し時間をロス。ここは頑張って突破しても落ち口までシビアなトラバースが続くので、比較的大きく巻くのが正解。1Pロープを伸ばして直上すると、ノーロープでトラバース可能となり、灌木の支点で25m+15mの懸垂下降。

 

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東俣沢と中俣沢の二俣に到着したのはちょうど12時。即席パーティということもあり、ロープセクションに思った以上に時間を費やしてしまった。

荒川は中俣沢の方が登攀要素が強く人気の様だが、本流筋は東俣沢の左俣となる。こちらは登りやすい滝が多いが、途中に大高巻きもあり遡行時間は中俣沢と同程度。また、ナメ滝の美しいポイントもあり、遡行感度は中俣沢に勝るとも劣らないとのこと。今回は初の荒川遡行ということもあり、本流筋の東俣沢左俣へ進むこととする。

 

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ヒノキモッコ沢出合を過ぎると端正な10m滝が出てくるので、左壁を直登。やがて頭上に連瀑帯が現れ、高巻きの可能性も考えながら取り付いてみると、なんとか突破できそうな雰囲気。下段はカムを決めスリングをアブミとして突破。最上段の滝は大岩の隙間のチムニーをズリズリ登って越える。

 

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右俣との二俣では、これから進む左俣に8m滝がかかる。ここは左岸のブッシュから越えるが、その先に直登不可能な大滝が現れるので、そのまま左岸を大高巻き。

 

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植生的には厄介な部類に入るが、紅葉の時期で比較的藪も漕ぎやすかった。一時間半の高巻きを堪能し、最後はクライムダウンで沢床に復帰。

 

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ここからは渓相も落ち着き。小滝とナメ床の癒し渓となる。最初の12m滝は左壁を快適に直登。続く2段20mは上段を右岸から巻く。ここから癒しのナメが延々と続くが、夕闇が差し迫っており、幕場を確保する為にスピードを上げて登っていく。

 

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10m2条の滝は水流右をフリーで登り、後続を確保。そろそろヤバいかなと思い始めたところで、二俣の右岸側になんとか幕場になりそうな藪が出てきたので、切り開いてツェルトを設営。焚火用の薪は殆どなかったので、ガス缶で夕食を作って早々に就寝。


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10/13(月)
6:00 C2-8:30 登山道-9:00 大朝日岳-14:00 針生平

この日は台風が接近する予定だが、午前中はなんとか天気が持ちそう。初っ端の10m滝と続く8m滝は右岸から巻く。続くゴルジュ内の10m滝も右岸から巻き、上部の連瀑帯は直登。

 

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やがて両岸の傾斜も落ち、源頭の雰囲気を漂わせ始める。登れない小滝を幾つか巻きながら沢を詰め、源頭部のススキの草原をかき分けると、やがて登山道のあるなだらかな稜線に飛び出す。

 

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振り返ると紅葉に彩られた荒川の谷筋が俯瞰できる。曇り空が紅葉の色調を落として、前日までとはまた一味違った渋い雰囲気の紅葉風景を楽しめる。

ここから大朝日岳の山頂まではわずかだが、一面に広がる山肌の紅葉に見蕩れて中々ペースが上がらない。山頂からもたっぷりと雲海と周辺山域の大展望を楽しみ、お腹いっぱいになったところで下山開始。

 

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東北のマッターホルン祝瓶山」に至る稜線も非常に美しく、沢のついでに魅力的な縦走も堪能できた。

 

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最後は多少雨も降り始めたが、特に問題もなく五時間程度で針生平に到着。道の駅に隣接する温泉ゆーむで汗を流し、台風の接近に伴う凄まじい風雨の中、早々に帰京した。

 

<雑感>

朝日連峰の沢は、岩井又沢、竹ノ沢、相模沢と続く三面川シリーズで個人的に印象深いが、今回は初めて別流域の沢の遡行となった。荒川は事前に水がきれいと聞いていたが、噂に違わず紀伊の銚子川を彷彿とさせる様な美しさで、白い花崗岩や赤黄の紅葉と相まって、色彩溢れる沢旅を楽しむことができた。

やはり朝日の沢は良い。自分の沢登りの原点を感じた山行だった。