雪崩レポート
3月8日、平湯某エリアにて雪崩に巻き込まれました。
雪崩の種類はおそらくソフトスラブアバランチで、巻き込まれたのは私と一緒に滑っていたもう一名。トリガーは後続パーティのスキーカットで、標高差50m、滑走距離にして100m程流されました。
幸い大事にはいたりませんでしたが、スキー板やストックが埋没してしまい、片足スキーでの下山を余儀なくされました。
心情的に事故報告はあまり公開したくないのですが、今回の事故は経験の共有という意味ではそれなりに有意義なものになるのではと判断しましたので、雪崩に巻き込まれたもう一名の許可ももらった上で一部内容の公開をしたいと思います。
なお、雪崩発生時の状況は自分で確認したわけではなく、その場にいた他の者の話をまとめたものとなりますので、若干内容の正確性に欠ける部分があるかもしれません。
また、トリガーとなった相手の方には、下山後に謝罪をして頂いた上で、その後も真摯に対応してもらっております。
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<雪崩事故レポート(抜粋)>
日時:3月8日(土)
メンバー:私・A・B、(途中合流)C・D・E
この時期の平湯としてはめずらしい程の新雪があり、入山前から雪崩の可能性が高まっていることは感じていた。火~木にかけて20センチ程積もり、金曜は晴れのち曇りという天気だったが、気温が低いためそのまま新雪が残っていたと考えられる。
雪面はやや不安定で、周囲に点発生の小さな雪崩やスラフは出ていた。とはいえ登高中に確認した際にはそれほど雪の接合状態も悪くなく、雪崩に巻き込まれるまでの滑降でも面発生でどかんと雪崩れる様な感じはなかった。
【雪崩発生前】
土曜朝、入山口で知人のC・D・Eパーティと合流。直前に示し合わせて同じ場所に来たが、一緒に行動するというわけではなく、あくまで別パーティとして入山。
まずはスキーヤー2人組(①パーティ)が先行して入山し、その直後にC・D・Eパーティが続くが、我々は諸事情で40分程遅くなる。その直前、スキーヤー×2とスノーボーダーの3人組(②パーティ)も入山していった。
2日前から雪が降り続けており、ルートは終始ラッセルとなるが、先行トレースのおかげでスムーズに進む。途中で②Pを追い抜き、ラッセルをしていたC・D・Eパーティに追いつく。途中でラッセルを交代しながら、シール歩行で進める場所まで進む。
①Pはここからすぐに滑降を始めるようだが、我々とC・D・Eはアイゼンに履き替えてピークを目指す。この後は下山まで終始行動を共にし、実質6人パーティの形となった。ガスと強風でコンディションはよくないが、とりあえずピークを踏んで戻る。アイゼンに履き替えた地点付近まで戻り滑降準備をしていると、トレースを追いついてきた②Pがちょうど滑降を始めた頃で、滑り始めは9人が固まる形となった。
滑降は往路ではなく北面の斜面へと滑り込む。ガスで視界がないが、GPSを用いて慎重に進む。斜面はクラスト層の上に新雪が30cm程溜まっており、どこを滑っても素晴らしいパウダー。最初は尾根を滑っていたが、斜度的に安全そうだったので一部沢筋の滑降も楽しむ。
標高2300m付近で北向きの尾根に乗るべきところを北西の沢沿いに滑り過ぎていたので、トラバースで軌道修正を行おうとする。目的の尾根に乗るには沢を一つまたぐ必要があったが、斜面的にスムーズに乗れなかったので、沢筋を少し滑り降りようとした際に雪崩が発生。
【雪崩中の状況】
滑降はC・D・E・私・A・Bの順で、その後ろに②Pの3人組が付いてくる形。沢筋は一旦狭くなってからS字状に曲がっており、ノドの地形によって上から下の様子があまり良く分からない。C、Dは沢筋を少し降りてノドを抜けた後、目的の尾根に乗る為にスキーヤーズライトの斜面に移動。後にEと私が続く。A・Bも適度に距離を取りながらその後に続くが、直後に②Pが沢筋の斜面上部をトラバース開始。②Pのスキーカットを起点として幅3~4m×高さ約2mの雪塊が、下部クラスト層を破断面として雪崩れ始める。
Aは発生地点直下で耐えることができ、Bは位置的に巻き込まれなかったが、先行していた私とEが徐々に勢いを増してきた雪崩に巻き込まれる。その際、Eは斜面が急で転ばない様に慎重になっていた為、体勢を整えるのに沢の端で一旦止まっていた。
また、私は吹き溜まりに足を取られて右足のスキー板が外れた為、すぐにリカバリーをして板をはめようとしていた。しかし、板をはめようとした瞬間にAの「雪崩だ!」という声と共に上部から雪の塊が突撃してくるのが見え、逃げる暇もなく巻きこまれる。この際、雪崩は沢幅の狭いノドを通過した為、さらに勢いを増した。また一時的に流れが斜めに向いた為に、比較的沢の端にいたEも巻き込まれる。この際、私は一旦Eに後ろからぶつかり、その後別々に流された。
結果的には私とEが急斜面を標高差50m程、雪崩にを巻き込まれながら滑り落ちる。滑走距離は100m程度。横から見ているとそこまで大きな雪煙ではなかったが、ものすごい勢いで雪の塊が落ちていき、その中に回転するスキー板が見えたとのこと。
スラフだった為に強い衝撃は無かったが、徐々に空気が抜けて雪がしまっていき、デブリ末端ではそれなりのしまり雪になっていた。
雪崩に巻き込まれている間は回転しながら揉みくちゃにされ、上下左右の方向感覚が全くなくなり、明暗がめまぐるしく変わっていることしか分からなかった。
私はエアポケットを確保する為に手を顔の前に持っていこうとするが、勢いが強すぎてそれすらできなかった。最終的に運良く顔が上を向いた状態で止まったので、すぐに上半身を起こしてデブリの中から抜け出した。
Eは埋まった時外に出て目印になるようにと思い、もがきつつストックを握りしめてなるべく外に突き出るようにしていたとのこと。最終的には鼻から上と片手が出ており、手で顔を出して助けを呼ぶ。救出の際は60-80cmほど掘ってもらったとのこと。
なお、ラストのAは下の様子が正確に把握できなかったので、私が雪崩に埋まったと思いすぐにビーコン捜索を始めるが、コールで埋没者がいないのを確認して合流する。
幸い二人とも身体的な怪我はなし。但し精神的にショックを受けており、落ち着くまで少し時間をおく。装備的には私がストック2本と、流れ止めがちぎれてスキー板1本を紛失。Eはストック1本とスキー1本が無かったが、近くを掘った際に見つかった。また、Eの兼用靴の一部とビンディングが破損していた。
二次雪崩を警戒しながらしばしの間紛失物の捜索を行うが、デブリ末端付近ではEのストックとスキー板しか見当たらず、二次雪崩の危険性と下山の遅延を考慮して早々に捜索を打ち切る。
②Pは雪崩が発生していたことは認識していた様で、尾根の上からこちらの様子を観察していた。「大丈夫ですか」と2、3回上から声がかかり、それに対してこちらの状況(ストックと板の紛失があり捜索中であること、スキーヤーは無事であること)を伝えると、引き続き滑って行った。
【雪崩発生後】
私はストック2本を借り、片足スキーで下山。少しの間、雪崩危険地帯が続くので、慎重に滑降。最後はゆるやかな登りの林道を、スキーを担いでつぼ足ラッセル。なんとか明るいうちに下山することができた。
②Pは現状を理解していなかった様子だったので、途中で追いついた際にAが状況を説明。下山後に連絡先を交換し、帰京後に今回の件の連絡を取ることとした。
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上記内容が今回の事故内容を抜粋したものとなります。
雪崩危険地帯を通過していた我々にも原因はあるのですが、そういった斜面に人がいるのに上部斜面をスキーカットするというのは、当時の状況下では明らかに危険な行為でした。この点に関してはトリガーとなった方も、相当に反省されています。
他パーティ起因の事故は、岩登りでの落石やアイスクライミングでの落氷という類似ケースが思いつきますが、これらは本人も終始上部を警戒して登っているので、比較的事前の回避策は取りやすいかと思います。しかし山岳滑走の場合、自身を巻き込む雪崩のトリガーとなる人間は注意しづらい背面におり、しかも滑走中は高速で移動しているので、思いがけないところを滑ってきたりします。
ある程度の経験者なら、行動様式を心得て安全な位置関係を保ってくれると思いますが、後ろからついてくるルーファイに自信の無さそうなパーティはそういった判断力にも期待は持てないので、より一層の注意が必要です。
もちろん人数が多く、統制の取れていないパーティの場合、自パーティで同様の状況が起こることも考えられるので、基本的に行動の予測できない人間が密集していること自体がリスクと言えます。
(そういう意味では11月連休の立山はあまり立ち入りたくはない場所)
自分が雪崩に巻き込まれている間は、助かる為の行動を取らねばと考えつつも、一方で真砂沢の雪崩事故や雪崩に埋まった知人のことを思い出していました。これで死んだら理不尽すぎると思いつつも、そういう遊びだと理解した上でやっているのだから仕方がないという気持ちもあり、最後はもがきつつも天に身を委ねて雪崩が収まるのを待つだけでした。時間的には脳が生存確率を高める為なのか活性化しており、かなりスローに感じました。同一体験を人生で二度ほど経験してるので、またこの感覚になる事態に陥ってしまったのか、という気持ちもありました。
また、巻き込まれるということの裏を返せば、自分がトリガーとなって他人を巻き込む可能性もあるということで、滑降中に斜面の下に人がいた場合は、十分注意して行動しなければなりません。
山スキーはとても楽しい遊びですが、安易な行動で一生拭えない十字架を背負う可能性もはらんでいることを理解して、その場に居合わせた他人にも十分配慮した行動を心掛けるべきで、それができないならせめて人のいないところに行くべきです。
なお、今回は片足スキーで滑って下山しましたが、スキー板をはめた足を上げるのと違ってカウンターバランスが取り辛いので結構難しいです。また、片足を負傷した場合に使える技術かと思いきや、スキーをはめてない足も制動として酷使するので現実的ではありません。
雪崩で埋まった装備に関しては、相手側が弁償を申し出てくれているので、また装備を揃えなおして活動を再開できたらなと考えています。その時は、今回のことを教訓に、より一層安全に配慮して行動していきたいと思います。