雪中松柏 愈青々

徒然なる山の備忘録 

四ッ岳 追悼登山

昨年三月、滑落事故で亡くなった後輩の追悼で再び四ッ岳へと向かった。

事故の二週間後にも現場調査で登ってはいたのだが、県警に教えてもらった現場の位置が実際と異なっていたのと、天気が悪くてガスっていたのとで、正確な事故現場には行けていなかった。

その後の写真確認で現場はほぼ特定できたので、今回はその場所に赴いて、慰霊の為の散骨を行う予定である。

 

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6:30平湯キャンプ場発。最初の急登をクトーを付けて登り、標高1580m付近で大滝川を渡渉。去年も来ているのでルーファイはほぼ必要なく、ラッセルもないので順調に進む。

徐々に樹林帯の中で標高を上げ、右手に大崩山が見えた辺りから少し進むと北面台地に到着。振り返ると、笠ヶ岳や槍穂高、焼岳といった、北ア南部の主峰が圧巻の揃い踏み。

森林限界を越えた辺りでトラバース気味に登高していると、純白の雷鳥が姿を現し、愛くるしい仕草で我々を導いてくれる。

 

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斜面は直前の降雪でカリカリのバーンとまではいっていなかったが、それでも滑落の危険性があったので、板を担いでしばしアイゼンで登る。

事故現場と思われる標高2,500m付近の台地状地形に乗り上げると、思っていたよりも斜度が緩い。ツボ足だと埋る様な雪質なので、感覚的には滑落が起きる様な場所に感じられないのだが、事故当日はアイゼンの爪を刺すのも難儀したということなので、滑落リスクも相当高まっていたのだろう。周囲の景色を確認しても、やはりここで間違いないと思われる。

時間に余裕があるので、とりあえず山頂を目指すこととし、再びシール歩行で登高。最後は北東側の緩い斜面を詰めて、13:30に四ッ岳山頂に至る。

 

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山頂からは3,000mを越す、乗鞍岳の雄姿。

この時、十石山から縦走していた所属会のメンバーが、ちょうど乗鞍岳山頂に登頂していた様である。

また、槍穂方面も天候が安定しており、前回同行させてもらった焼岳中堀沢のリトライ組も、初滑降に成功していた様だ。

 

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山頂からは往路のボウル状地形を戻り、再び先程の現場へ。

事故現場の可能性の高い立木に集まり、皆でしばしの黙祷。

遺骨を根元に散骨し、一年ぶりの再開を懐かしむ。

 

眼前には遥か先まで続く北アルプスの大展望。ここならきっと彼も安らかに眠れるはずだ。いつまでもここにいたいが、夕暮れ時も近いので、彼に再びの別れを告げる。

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ここから渡渉点までの標高差700mは終始軽い雪が続き、疎林帯の中を快適に滑り降りる。沢筋に降り過ぎてややハマるが、登り返しでリカバリーして、16:30頃に平湯キャンプ場に到着。

途中、現場確認も挟んだので、登り7時間、下り3時間の計約10時間の行動となった。

 

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亡くなった彼とは直接一緒に山へ行ったことは無かったが、フランスのとある駅のホームで、お互い海外旅行中ということを知らないのに偶然遭遇するなど、不思議な縁があった。就活のアドバイスもよく聞いてくれて、それを参考に会社選びもしてくれていた様である。

そして、これから社会に出るという矢先の悲報。お盆の時期は一人で佐渡を訪れ、彼の生まれ育った故郷をその目に刻んだ。

時に人の最後は唐突に訪れる。仲間の若すぎる死を受け入れるのは難しいことであるが、残された者は故人の遺志を継いで、先に進まねばならない。

 

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