雪中松柏 愈青々

徒然なる山の備忘録 

聖地 相模沢巡礼

今回遡行した相模沢は一ヶ月前に予定していた計画だが、その時は相模沢入谷のタイミングで雨が降る事が確定し、登攀要素が高いこの沢に入る事を諦め、竹ノ沢中ノ俣沢へと転進した。後々確認してみると、この時の相模沢上部左俣のゴルジュ帯には大規模な雪渓が残っており、仮に突っ込んでいたとしても、おそらく右俣へエスケープしていただろう。

下部から沢筋を遡行すると四日間は必要となるが、通常の週末で休みを確保するのも難しい為、アプローチを工夫し、三日間で再挑戦することとした。

 

9/21(金)

7:10駐車場-8:40三面小屋-12:30藪尾根下降開始-15:30小相模沢-16:00相模沢出合C1

 

新潟で前夜泊し、始発で村上へ。お盆のときと同様に駅前のタクシーで登山口の駐車場へ向かう。タクシーの運ちゃんによると、三日前まではフェーン現象でひどい暑さだったそうだが、二日前の雨から10度ぐらい冷え込み、一気に秋めいてきたとのこと。出発前は三日間晴れの予報だったが、直前に悪化し初日の天気は残念ながら雨。黙々と三面小屋経由で登山道を進む。終止降り続く雨で濡れてしまい、このまま服を乾かせないと幕営時の寒さが厳しい事になりそう。

しかし薮尾根を下降し相模沢出合についたころには晴れ間が覗き、天候回復の兆し。小相模沢出合の適度なスペースにツェルトを張って、焚火で衣服を乾かす。今回持って来たファイントラックのツェルトは明け方でも一切結露せず、快適な一夜を過ごせた。

 

9/22(土)

7:00幕場-11:50第三大滝高巻下降点-13:30 C2

 

朝食を済ました後、まずは空身で相模沢出合の往復。6:30 一ヶ月前に惜しみながら通過した竹ノ沢本流と相模沢の二俣に再び降り立つ。改めて見ると推量は2:1程度で、一見枝沢に見える相模沢は、本流上部で分かれる金掘沢、中ノ俣沢と比べても遜色ない水量を持っていることが確認できる。

7:00 ザックを背負って幕営地点から行動開始。天候は晴れで、昨日と比べると水量も若干減っており、出合の連幕から漂う威圧感も少し和らいでいる。小相模沢出合からすぐに相模沢本流は泳ぎの必要な淵が出てくるが、早朝で寒いので左岸の薮から巻く。直後の8m滝は右壁のバンドから越し、その後の5mは右岸から越える。そこからしばし穏やかな渓相が続き、幕営可能なポイントも見受けられる。

8:20 相模沢下部の三大大滝の一つ目が突然その姿を現す。X状の流れは遡行者のこの先への侵入を拒んでいるかの様でもある。下段は左壁を登り、上段は濡れた岩にそっとフリクションを効かせて流れを跨ぎ、中壁に取り次いで抜ける。滝上もすぐに10mの直幕で、右岸の泥付きから巻く。

 

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その後の8m滝を右壁から空身で取り付いて越えると、左壁が頭上で豪快にハングしている二つ目の大滝に到着。取り付きから滝の全容は見えないが、上部も斜瀑が続いており、50mロープを目一杯使って花崗岩の固い岩肌を快適に登る。

 

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続く三つ目の大滝は直登不可能なので、右岸から高巻き。急勾配の薮をトラバースしてルンゼを二つ越し、大滝とその上部の滝を二つ程まとめて巻く。最後は懸垂下降で降り、1時間15分程度で沢床へ復帰。少し離れた側壁にはスラブの岩肌を伴った立派な岩峰が聳え立ち、中々に雰囲気がある。

 

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束の間の河原に癒された後、8m滝の右壁を再び空身で突破。そこから先は両岸が切立ったルンゼ状地形に入るが、本谷はゴルジュに入る前に右側に曲がる。前方のゴルジュ帯は涸れ沢になっており、地形図から想像していた程の威圧感は無い。

 

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谷を曲がってすぐの三段滝の下段は右壁を登り、上部の二つを右側から巻くと、渓相も落ちついてくる。時間はまだ13:40だが、この先のゴルジュ帯の通過にどれだけ時間がかかるか分からないので、ここで行動終了。5m滝を登るとすぐに砂地の広がった幕場適地があるが、今回は焚火の薪を優先して、少し先にある釜の手前の大岩の横にツエルトを張る。秋晴れで気持ちのよい空だが、予報によると明日の昼前から崩れ始めるとの事。

 

9/23(日)

5:15幕場-5:25二俣-9:15登山道-11:40道陸神避難小屋-12:40三面小屋-14:00駐車場

 

5:15に行動開始。10分程で二俣に到着し、左俣へ進路と取る。2段15mは濡れた左壁を登り、続く6mも左壁のバンドから落ち口へ抜ける。奥の二俣を左に曲がると、いよいよ最後のゴルジュ帯が遠くに見えてくる。右手の下部二俣から続く中間リッジは、急斜面を登ると右俣へ乗越せそうなので、この先のゴルジュ帯で詰まった場合は、ここから右俣へエスケープしてもよいかもしれない。

大ゴルジュ帯の手前にはわずかだが雪渓の残骸。一ヶ月前に登山道から俯瞰した時、びっしり雪渓が詰まっていた場所に違いない。ゴルジュ帯の中はチムニー状の滝が点在。雪塊と流水に削られた花崗岩は、赤黒い鉄分を帯びた岩肌を露出させており、上部を覆われた暗いゴルジュ帯の雰囲気を一層不気味なものとしている。

核心でもある10mの直滝は、20年前には登れずに左壁から人工登攀で越えたとあるが、上部に掴みやすいホールドがあるので、リーチがあればすんなり登れる。左壁はボロボロでまともなスタンスもないので、巻きは非常に厳しそう。ここでどれだけ手こずるかと身構えていたので、思いがけず登れたときの爽快感は格別だった。

  

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この上も8m滝が続くが、左壁にショルダーで取り付くと後は快適に登れる。そしてこの後、大ゴルジュ帯最深部の20m直滝が大岸壁と共に姿を現す。薄暗い谷の中で、赤黒い岩肌に滔々と流れ落ちる様は、地の底を思わせる。少しの間、直登できないか探っていたが、いよいよ小雨も降り出したので、滝の左に聳え立つ岩峰から登って越す。

最後に30mスラブ状大滝を登ると、沢もようやく源流部の様相。それにしてもこれだけ深いゴルジュが、行き詰まることなく全てフリーで登れるというのは非常に素晴らしい。ゴルジュ両岸の上部には下田川内を思い出させるスラブ状岸壁が広がっている。ここからなだれ落ちた雪塊が長年に渡って谷を削り、この様な深い谷を形成していったのであろう。

最後は相模尾根に向かって沢筋を詰め、濃い薮をわずかに漕いで登山道に到着。予定していたよりもかなりタイムが早く、出発前に予約していたタクシーの時間に対して余裕があり過ぎるので、駄目元で携帯を取り出してみたら電話がつながった。ここから行きと同様、雨の降りしきる登山道を下山し、4時間半で駐車場着。瀬波温泉に汗を流し、新潟駅前の庄屋で打ち上げして帰京した。

 

 

完全遡行の記録が約20年前の一本しかなく、不確定要素が多いという点で終止緊張感を感じさせられたが、結果的には思っていたよりも岩が固く快適に登れたので、非常に満足度の高い一本となった。

 

相模沢は、相模山を挟んで逆側に位置する岩井俣沢ガッコ沢と双璧を成す、朝日連峰の二大険谷であるといえる。花崗岩で明るいガッコ沢を陽とするならば、深く赤黒いゴルジュに潜る相模沢はまさしく陰。サ神のおわす聖地として崇められるのも然もありなんと感じさせる、素晴らしい谷であった。