雪中松柏 愈青々

徒然なる山の備忘録 

GW知床スキーツアー②

5/3 知床連山縦走①
10:00 羅臼側ゲート-16:00 C1


斜里から羅臼まで移動し、9時にオープンする羅臼ビジターセンターで再びクマスプレーをレンタル。職員の方にこれから入山する旨を告げると、にこやかに頑張ってくださいと送り出してくれた。相変わらず雪崩の影響で知床横断道路は通り抜けできないが、この日からウトロ側は知床峠まで、羅臼側は羅臼湖登山口までなら入れることとなったので、ゲートで10時のオープンを待つ。
ゲート前では地元の山岳会の方が大勢いらっしゃり、色々と情報を頂く。あちらはこれから羅臼湖をベースに様々な斜面を滑られるとのこと。あの辺はヒグマの足跡がありましたけど…と聞くと、普通にいるよーとにこやかに答えられていたので、地元の山屋さんにとってはその程度の感覚なのだろうか。


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羅臼岳までの登路は間欠泉からの夏道登山道もあるが、結構トラバース箇所も多い。直観的にハマりそうだし、積雪期は登山川の右岸尾根を登るのが一般的という情報も得ていたので、今回は尾根沿いから登ることとする。しかしさすが標高150mの入山地、知床大橋の基部で川沿いに降り立つが、いきなり厳しそうな渡渉が待ち受けている。だが、ここで早々と帰る訳にはいかないので、多少の濡れは気にせずに渡り切る。その後はすぐに急斜面の草付き、そして笹薮の藪漕ぎが続き、早々に心折れそうになる。また、ヒグマの足跡が多く、その辺の藪に潜んでいるんじゃないかと不安になる。


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標高360mでようやくシール歩行開始。藪の濃い主尾根を避けて左手の細尾根から標高を上げる。標高550m付近の急斜面帯を抜けるとようやく地形も落ち着てくる。上部へ行けば雪も多くてスムーズに進めるだろうと思っていたが、今度は広大なハイマツ帯が行く手を阻み、雪の繋がっているところを探して、迷路の様に進む事となる。行けども行けどもハイマツが途切れることはなく、藪の巻きと藪漕ぎ突破を繰り返しながら進むことになるので、結構消耗させられる。三月ぐらいならハイマツが雪で埋まっており、そこまで気にせずに登って行けるのであろうが、この時期はやはり賞味期限切れであった。


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行く手に屏風岩が見えてきた辺りで、この日は行動終了。思ったより進まなかったが、風も強くて稜線は大変そうだし、雪崩対策を考えるとまあまあ妥当な幕営地。


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5/4 知床連山縦走②
5:20 C1-8:10 羅臼岳-9:20 羅臼平-10:40 サシルイ岳-14:20 知円別岳-17:45 旧知円別小学校


三時半に起床、国後島からの朝焼けとモルゲンロートに染まる羅臼岳が美しい。屏風岩で夏道登山道と合流して登っていくが、上部に大きなクラックが見えて怖いので、少しでも雪崩リスクを減らすために、途中から右岸の尾根上地形に取り付く。


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クラックは一人ずつ下を素早くトラバースしてやり過ごす。後は石清水まで雪原を登り、スキーをデポしてアイゼンに切り替える。羅臼岳の山頂まではわずかで、8時過ぎに無事登頂。振り返ればこれから縦走する知床連山の山並みがきれいに見える。今回、雪崩により知床峠から諦め、悪天により岩尾別温泉から諦めた羅臼岳の登頂であったが、結果的に一番所要時間の長い羅臼側から登頂することができた。急がば回れ


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石清水に戻ってからはいよいよスキー縦走。羅臼岳までは藪に行く手を阻まれて長かったが、稜線上は特に邪魔するものがなく、一気にペースがあがる。


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まずは岩峰が特徴的な三ツ峰を鞍部からパスして、シールを外さずに滑り、サシルイ岳の登りへ。ここから振り返ると、三ツ峰の鞍部に羅臼岳がピッタリはまり、漢字の「山」の字を体現したかの様な特異な景色を拝める。


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サシルイ岳からの下りは斜度も急になるので、シールを外して滑降。シュカブラが発達しており、ちょっと滑りづらい。コルの池(標高1319m)にはヒグマの足跡。この時期、こんな高さにもいることに驚き。


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オッカバケ岳を過ぎ、二ツ池を横断して、南岳の登りに差し掛かる頃、照り付ける太陽にやられてやや熱中症気味に。GWの山スキーなのに帽子を忘れたのが敗因。雪に練乳をかけた即席かき氷でなんとか暑さを凌ぐ。南岳に到着すると、眼前に荒々しい硫黄岳の景観が広がり、今までとはまた違った雰囲気となる。


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稜線上の凹地にポツンと佇む美しい池を過ぎ、最後の知円別岳のピークを目指す。夏道沿いに進んで行くが、最後の標高差50mは登山道がないのでスキーをデポして登る。知円別岳の山頂からはこの日歩いてきた稜線は勿論、硫黄岳の向こうに知床岳、海の向こうには国後島という素晴らしい展望が広がる。特に国後島の爺爺岳(チャチャヌプリ)は標高1822mだが見事な二重火山で、海上に堂々と聳え立つ姿は4000m峰ぐらいの迫力がある。


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入山前の地元山岳会の方の話だと、ここから一時間ぐらいで下山できるよとのことだったが、相変わらずハイマツ帯が広がり、安易に下ると大ハマりしそうな地形。現在地を確かめながら慎重に下っていくが、藪が出てくると右から巻くか、左から巻くかで都度悩まされる。しかし、たまに出てくるオープン斜面で、海に向かってザラメスプレーを上げながら滑るのは最高に気持ちいい。


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途中で10分前に歩いたばかりと思われる鮮明なヒグマの足跡を見たりしながら、どんどん標高を下げると、行く手で獣の気配。笛を鳴らして、クマスプレーを片手に進むが、今回はどうやら鹿だった様で一安心。

標高300m以下はもはや滑れるほどの雪が残っていないので、あきらめて板を担いで藪漕ぎ。背丈以上の藪を鉄塔を目標に漕ぎ進む。ブーツとズボンがドロドロになった頃、ようやく道路が見え、旧知円別小学校に降り立つ。


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18時台のバスで羅臼に戻ろうとするが、よく見たらこの日は欠便…、下界ビバークかと思いきや、偶然通りかかった地元の方が軽トラで運んでくれるとのことだったので、お言葉に甘えさせてもらう。結局、駐車地の自然センターまで運んでもらい、お礼に名前を聞こうと思ったら、いいよいいよと颯爽と立ち去っていかれた。番屋をやられている方らしいが、これぞ羅臼の漢、という感じであった。

自然センターの方にも下山報告をした後、熊の湯で汗を流して羅臼のコインランドリーで洗濯。長い一日だったが、今回の主目的である知床連山の縦走ができて満足。この日は道の駅で就寝。


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(③に続く)

GW知床スキーツアー①

GW知床スキーツアー(2017/4/29~5/7)
メンバー:Minapoさん


GWは北海道の知床へ。全九日間のうち、入山は六日間。序盤でまさかのトラブルに見舞われるも、全体的に天気にも恵まれ、知西別岳羅臼岳~サシルイ岳~知円別岳、海別岳、斜里岳に登頂することができました。

ちなみに今回、ドローンを入手して山で飛ばしてみましたが、山の魅力を伝える一つの優れたアプローチだなというのを再認識させられました。撮影や編集スキルはまだまだですが、本ツアーのまとめ動画も作成してみましたので、よろしければご覧ください。

 

知床連山スキー 2017 GW; Shiretoko Range in Aerial, late spring 2017 from HRMT on Vimeo.


4/29 移動日
羽田から飛行機で女満別へ。レンタカーで能取岬能取湖サロマ湖を散策した後、網走泊。網走周辺は関東だと名の知れた景勝地になりそうな水芭蕉の群生が至る所に見受けられるが、地元の方は潮干狩りの方に関心がある様で正に花より団子。北海道の開放的な雰囲気を存分に満喫して、明日からの登山に備える。


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4/30 知西別岳
10:30 登山口-11:10 羅臼湖-12:50 知西別岳-15:00 登山口

網走から知床はウトロを目指して早朝ドライブ。海岸線の向こうに浮かび上がる知床連山の姿が神々しい。オシンコシンの滝を見学した後、ウトロの道の駅へ。本日は現地の知り合いの管さんと行動を共にすることになったので、ここで合流してゲートへと向かう。
知床横断道路はGW連休に入るタイミングでオープンするが、開通可能時間は10時~15時半。オープン直前になると、ゲート前に長蛇の列ができる。今回はまだクマスプレーを入手していなかったので、ゲート前の知床自然センターでレンタルすることに。レンタル料は一日1000円、使用した場合は10000円とのこと。
知床エリアの山スキーは三月までが適期の様で、GWに下から登山すると藪漕ぎに難儀するらしい。但し、知床峠(標高738m)や根北峠(標高487m)からのスタートであれば、最初から雪の上を歩けるのでGWでも人気があり、知床横断道路からのアプローチだと、夏は登山道のない羅臼岳への南西ルンゼからの登頂や、羅臼湖経由の知西別岳登頂がメジャーの様だ。


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この日の入山者も多く、知床峠には多くの登山者の姿。羅臼湖方面にも続々と山スキーヤーが出発していく。ゲート内では5時間半のタイム制限があるので、こちらも急いで準備して出発。登山口から羅臼湖まではゆるやかな地形を軽く上り下りしながら進んで行く。


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羅臼湖は氷結が溶け始めているので警戒して北側から巻いたが、後から来たボーダーの方がツボ足でド真ん中を突っ切っていたので、意外と大丈夫らしい。その後すぐに川が横断しているので、先行パーティは右手から大きく巻いていたが、近づいてみると渡渉ポイントがあり、結果的にまっすぐ進むことができた。周囲にはヒグマの足跡が多く、ただよう風も若干獣臭い。


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川を過ぎると、後は知西別岳の稜線まで沢型をひたすら詰めていく。上部はやや急斜面になっているが、雪もゆるんでおりなんとかシールで登れる程度。稜線に出てからハイマツ地帯を少し過ぎると、やがて知西別岳の山頂に到着する。稜線の向こう側には遠音別岳が裾野を広げて鎮座している。


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山頂は強風でゆっくりしていられないので、早々に下山開始。ハイマツ帯を下部からやり過ごした後、先ほどのルンゼを羅臼湖を眼下に快適に飛ばす。今回はじっくり撮影をしながらだったが、その気になれば山頂からノンストップで羅臼湖まで来られそう。
帰りは羅臼湖の上を歩いてみたが、雪が切れているところは普通に水が出ており、黒部湖横断の感覚からするとやはり不安…。そもそもシールが濡れるので、スリルを楽しみたい人以外はやはり巻いた方が無難。


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15時に下山してウトロ側に戻り管さんと別れるが、この直後に知床横断道路が雪崩れて通行不能になり、この後数日間(5/1~4)通り抜け不能に…。タイミング的に下手したら喰らっていたかもしれない。幸い負傷者はいないとのことだが、この時期にこの道路を開通することの難しさを実感させられた。


5/1 岩尾別温泉~極楽平
7:50 岩尾別温泉-12:00 極楽平-13:20 岩尾別温泉

前日の雪崩の為、知床峠からの縦走が不可能なので、急遽海岸側から羅臼岳を登ることとして、ウトロ側の登山口である岩尾別温泉に向かう。ここは山スキー百山にも紹介されているルートだが、序盤の尾根沿いの登山道はしばらく担ぎで登ることとなる。担いだ板に枝が引っかかりちょっと厄介。ようやくシールが使えるようになったと思っても、複雑な地形とハイマツであまり快適には登れない。


また、寒気が入っている為か、知床連山の稜線はぶ厚い雲に覆われており、途中で完全に登頂意欲を消失。極楽平で行動打ち切りとして、下山することとする。


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下山は登路のスキーヤーズライトの沢を下るが、ここもヒグマの痕跡が多い。狭い沢だが序盤はそこそこ快適。しかし後半は小石の地雷原で、最終的には雪がなくなり完全に沢下り…。泥壁をダブルアックスで下降したりしながら沢沿いを進むと、右岸に踏み跡らしきものが現れ、なんとか無事に岩尾別温泉まで戻ることができた。


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山行の内容的には残念だったが、後半かなりのアドベンチャーで、知床の自然を存分に体感できた。しかし今回の主目的である知床連山の稜線がまた少し遠くなった気がする。
早めの下山で時間も余っているので、まずは知床五湖を散策。ヒグマへの注意勧告があるので、事前のレクチャーがやけに丁寧。この時期は雪の影響で半周しかできないが、整備された木道からは素敵な景観を楽しめる。知床連山を一望できる展望が売りとのことだが、相変わらず稜線は厚い雲で覆われている。続いて、フレペの滝(乙女の涙)を散策。上からはわずかな染み出ししか見れなかったが、海から見るとまた違って見えるらしい。


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最後に知床観光の締めとして、知床自然センターの映画館並みの大型スクリーンで「四季知床」を鑑賞。空撮を多用した迫力のある映像に刺激されてモチベーションも徐々に回復。なんとしても縦走してやろうという気になったので、立ち寄ってよかった。但し翌日も悪天予報なので、一旦斜里まで撤退して、明後日からの行動に備えることとする。


5/2 休養日
昼過ぎまで天気が悪いので休養。午前中は網走の民俗資料館で時間を過ごし、午後は芝桜公園、屈斜路湖、硫黄山摩周湖などをめぐる。この日を挟んで二日間、斜里のクリオネキャンプ場のゲストハウスで過ごしたが、相部屋ではあるものの、宿泊費1500円で風呂付き、炊事スペース利用可でなかなか快適であった。ライダーは勿論、登山者や海外からの利用客も多い。

斜里の街にはやたら海産物が充実したスーパーがあるので、ここで魚を仕入れて、あら汁やらムニエルやらを作る。ちなみに斜里には坂本ホーマというホームセンターがあるが、アウトドアコーナーには飛行機で運べないガス缶を始め、ジェットボイルやシュラフなど各種アウトドアギアが完備されており驚いた。今回は空港横のレンタカー屋でガス缶を購入したが、次回からはここへ立ち寄りたい。


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(②に続く)

黒部川スキー横断

黒部川スキー横断(2017/3/18-20)
メンバー:ハッチ、Minapoさん

3/18(土)
5:50 日向山ゲート-7:20 扇沢-11:20 針ノ木峠-12:50 蓮華岳西峰-蓮華岳南西斜面-15:40 平ノ渡 C1

3/19(日)
5:45 C1-中ノ谷-8:45 窓-御山谷-13:00 一ノ越 C2

3/20(月)
6:15 C2-弥陀ヶ原-14:10 美女平-16:10 立山


前日は松本泊、ムーンライトで5:10に信濃大町に到着してタクシーに乗り込み、日向山ゲートへ。タクシーの運ちゃんは雪が少ないと言っていたが、個人的な感覚は多めなので少なくとも立山側は大丈夫であろう。
ゲート前には車が数台止まっており入山者が多そうな雰囲気。但し、半分は針ノ木雪渓往復だと思われる。まずは一時間半の林道歩きだが、同じく黒部横断予定のパーティに二組も遭遇。毎年徐々に人が増えている様でちょっと複雑な気分。


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扇沢からはシール歩行となるが、針ノ木雪渓は前二回と比べてデブリもなく歩きやすい。谷中はパウダーが溜まっているが、今日は気温が上がりそうな上に、滑る予定の斜面は南向きなので、残念ながら滑りは期待できそうにない…。
谷が曲がったところで上部に二人組が見え、なんとなくY田Pかなと思って進んでいくが、やはりそうであった。トレースはその上にも続いており、先行パーティがいる様子だが、後で知ったところによるとこちらも知り合いのパーティだった。
黒部まで来ているのは知り合いばかり…。針ノ木峠ではY田Pと合流して記念写真を撮る。


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ここで一旦、滑りに不安のあるMinapoを針ノ木谷を滑るY田Pに入れてもらい、ハッチと二人で蓮華岳方面へと進む。
板を担いで標高差250mアップで蓮華岳西峰に到着。ここから蓮華岳南西面へと滑り込む。雪面の状態はきれいだが、いざ滑りこんでみると一部氷化しており気の抜けない斜面。蓮華岳をバックにかっこよく滑ろうと思ったが、とてもそんな状況ではないので、安全に標高を落としていく。


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ノドの部分は右手のルンゼに入るが、この辺から今度はモナカ。この辺もそれなりに斜度はあるが、ルンゼ状で谷の幅が一気に狭まるので、しばし手強い滑りが続く。


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ノドを抜けると斜度も落ちるが、相変わらず谷が狭く両側壁はぶっ立っているので、いつ雪崩が来るか分からない。まともに休める場所もないのでどんどん滑っていくと、やがて針ノ木谷の出合で休憩中のY田Pの姿が見えた。


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ここからまた三人で行動となり、Y田Pと前後して行動する。針ノ木谷の後半は沢割れが気になるところだが、結局一回板を外しただけで平ノ渡手前まで行くことができた。


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黒部川の渡渉は今回はネオプレンソックスで挑戦。最初はそんなに寒くないかなと思ったが、そこはやはり雪代、渡渉の後半ではシビれる寒さで素早く渡らないと凍傷になりかねない。ただし、本気の渡渉はこの一回で済んだ。


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中ノ谷に入るとよい幕営地がないので、今日は平ノ小屋近くの広い雪原(夏は湖面)にテントを張ることとする。
M平Pとも無線交信が取れ、お互い本日の状況を共有。こちらは散々な雪質だったが、大スバリ沢は三月とは思えないパウダー滑降だったとのこと。
明日は計画では室堂を目指す予定だが、残念ながら天気予報が急激に悪化している。判断が難しいところだが、ここは黒部のド真ん中。日数的にもあまり停滞はしたくないところ。明日の朝の予報を見てまた考えることとする。ところで夜半、平ノ小屋方面から犬の吠える声が聞こえてきたが、いったい何だったのだろうか…。


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3/19(日)

翌日、日付が変わった頃からパラパラと降雪。中ノ谷は側壁からの雪崩が怖く、こういった条件であまり入りたくないが、新雪より下の積雪は安定しているので、スラフに注意しながら行動することとする。
まずは懸念の中ノ谷下部の大滝だが、今年もバッチリ埋まっており問題なし。少し進んで、左岸の比較的緩い斜面に入り、窓とよばれる標高2030mのコルを目指して標高差300mを登る。


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ゆるい沢型で雪崩のリスクはそこまでなさそうだが、デブリもあり、やはり降雪中に入るのは気持ちがよいものではない。案の定、側壁からスラフが発生して、流されないものの足元にかかるということがあった。


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窓へは最後雪庇を崩す必要があり板を脱いでスコップを用意するが、ここも地形的に流されることはないもののソフトスラブアバランチが発生。慌てず雪庇を崩してコルに乗り上げ、出発から三時間でようやく窓に到着。
ここからは御山谷に滑り込むことになるが、依然天気が悪くあまり視界もない。このまま進むか、ザラ峠にエスケープするか悩ましいところだったが、運よくガスが取れて視界が効く様になる。


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ピットチェックの結果も新雪との結合以外はかなり安定しており、地形的にも尾根上の台地地形を拾えば比較的安全に降りられそうだったので、頑張って進むこととする。
滑ってみると思った以上に良い雪で今回の山行で一番楽しい滑降であった。標高差は少ないのであっという間に御山谷のボトムへ。太陽も出てひと心地付いた感じだが、いつまた悪化するかもわからないので、頑張って一ノ越まで登り始める。


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御山谷は先行者がいる様だが、トレースは風雪で消え始めている。最初はM平Pのものかと思ったが、後で無線交信すると御山谷下部で停滞していた様で、こちらは昨日針ノ木雪渓から続いていた別の知り合いの方のトレースであった。
ボチボチと標高を上げていくが、やはり後半は天気が悪くなり、視界も効かなくなる。積雪自体は安定しているが、ホワイトアウトはやはり面倒。
13時にようやく一ノ越に到着するが、案の定爆風。当初は室堂の風のないところまで行こうとしていたが、視界がないので致し方なく一ノ越にテントを張る。テントの周りには風除けのブロックを積むが、つむじ風で何度も壁が崩れる。前のGWの時もそうであったが、小屋の周りは意外と巻き込みの風が強い。
そうこうしているとM平Pも一ノ越まで上がってきて、昨夜同様ぶなPとの合同幕営と相なる。


3/20(月)

夜半まで風雪が続き何度か雪かきもしたが、明け方には雪も止み、満点の星空。但し、相変わらず爆風で出発の準備はつらい。
一ノ越直下は一瞬固いが、すぐに吹き溜まりになるのでスキーを履く。シュカブラで滑りづらいが、まあまあ快適。


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浄土山からの雪崩を警戒して迂回気味に滑り、再びシールを装着して室堂ターミナルへ登り返す。弥陀ヶ原までは緩やかに下っているが、昨日の降雪で下りラッセルなので、残念ながらシール歩行の方が早い。天気は素晴らしく、眼前に日本海という最高のロケーションだが、時間的にはタイトになりそうなので頑張って進む。


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除雪も大分進んでおり、終始アルペンルートの左岸を歩く。前半は素晴らしい景色を楽しめるが、ひたすら長いので弥陀ヶ原から先の樹林帯は消化試合の雰囲気。アップダウンも激しくシールを外せない。正直スキーを生かした下山とは言えないので、やはり条件がよければカスミ谷を滑りたいところ。


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出発から八時間で美女平に到着するが、ここからの材木坂が今山行の真の核心。最初はスキーで滑れるが、途中から雪の途切れた細尾根となり板を担ぐものの、踏み抜きが凄い。シートラでの歩行は滑落したら姿勢の制御が難しく滑落停止もできないが、踏み抜きは上半身が下に投げ出されやすいのでかなり怖い。


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電車の時間も迫っているので奮闘しながら下山し、なんとか16時台の電車に乗り込む。同じタイミングでまたスキーを担いだ登山者が三名乗り込んできたが、なんとガイドの澤田さん。どうやら我々の後から黒部横断をされていた様で、平ノ渡からは降雪中で雪崩リスクのある中ノ谷を敬遠して平ノ小屋から中ノ谷の右岸尾根を登ってこられたとのこと。さすがはガイドの判断、今後の参考とさせて頂きます。


富山駅ではあまり時間もないので、近場の風呂にタクシーで往復し、白エビ天丼と富山ブラックで締め。
三月では三度目の黒部スキー横断となったが、今回がもっとも天気に苦しめられ、雪崩リスクを考えさせられる山行となった。ぶなP同士協力して三隊とも横断に成功したのは嬉しいが、この結果に過信せず、山行中の安全管理については自分なりに考えを深め直したい。そして次回はまた別のルートから横断にチャレンジしたい。